川井: | 今後はラボとして個人として、どんな取り組みをしていこうというのは何かありますか?
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竹迫: | 日本のITエンジニアがもっと幸せになれるようなことをしたいと思いますね。それは会社のミッションとは関係なく、個人の思いとして、強く思っていますね。
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川井: | いいですね。それは、技術で解決できる部分と違う部分っていうのが、なんかありそうな感じですね。
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竹迫: | ありますね。技術者が幸せじゃないと感じている部分についても、実は、ソフトウェアの構造によって引き起こされている部分もあると思うので、その部分について技術的に解決していけるものを色々作っていきたいなって思ってますね。
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川井: | 興味があるんですけれども、具体的にどういうことですか?
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竹迫: | 例えばセキュリティの分野とかが特にそうなんですけど、今は色々脆弱性がオープンに指摘されるっていうことがあるんです。例えば「そのWEBサイトに脆弱性がありますよ」っていうのがオープンに指摘されると会社の信用を落とすので、それを指摘されたらすぐ休日とか業務時間外とかでも直さないといけないとか、そういう威圧的な空気があったりもするんです。
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川井: | なるほど。
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竹迫: | でも、結局そういうのって、ある程度技術があれば対応できる部分があると思っていて、1つはApacheのモジュールで、その脆弱性があったときに運用者とかが、その穴を塞げるような仕組みを作ってあげると、無理にそのプログラムを作ってる人たち本人に話がいかなくても、一時的に運用者側で対応ができるっていうのがありますね。
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川井: | なるほど。この辺って確かに仰るとおりで、技術の部分ですよね。ただ、業界の慣習とか考え方というんでしょうか?実は私の友人で、やはりセキュリティのテストをやっている会社があるんですね。それで、SIerに営業に行ったそうなんですけれども、ぜんぶお断りされたらしいんです。
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竹迫: | そうなんですか。
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川井: | 「そんなところにお金払えない」って言われて、「頭にきた」「ユーザ側に言ってやる」と言ってますね。要は出荷前のセキュリティチェックにお金を払わないと開発側(SIer)が言ってしまうんですよね。なので、技術以前のその業界の体質というんでしょうか、そういうところにも問題があるのかなぁという感じはしますね。
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竹迫: | そうですね。だから、1つのやり方としては、言い方は悪いですけれども、不祥事とかっていうのを大々的に取り上げて、恥をかかせる文化っていうのが、日本ではあると思います。
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川井: | ありますね。
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竹迫: | 僕は、日本はやはり「村八分」の文化って結構残ってると思っているんです。
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川井: | そうですね(苦笑)
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竹迫: | 何が正しいかっていう命題は国民性があると思っていて、日本では、村八分という手法で正しくないと思われる人たちを、どんどん外に追いやって村社会を健全な方向に保っていくんですよね。でも他の国とかを見てみると、多分古典的なローマの人たちは「立法」主義で、法律で社会の正しさっていうのを保っていて。あと、ユダヤ人の人たちとかっていうのは宗教の「戒律」の部分で正しさっていうのを自分達で保つ持つみたいなことをやっていて、日本はある意味、文化的にそういったものがないので、だからそういった村八分的な、いわゆる「恥」の文化で、社会全体の正しさを保とうとしているのかなぁって思います。
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川井: | 深いですね。
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竹迫: | だから、ちょっと日本の会社でJ-SOX対応とかコンプライアンスのプロセスが馴染みにくいのは、そういうところなのかなぁと思っています。
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川井: | 非常にあいまいな社会で和を大事にするってことと、同じことを大事するっていうことですね。
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竹迫: | そうですね。あとは、情報セキュリティマネージメントシステムのISMSの認証の元になったのは、英国のBS 7799の規格だったんですけど、それっていうのは、もとをさかのぼると植民地を統治するための仕組みとして用意されたものなんですよね。これはもう100年以上の歴史があるもので、イギリス本国から物理的に離れた場所のインドとか色んな海外の拠点とかの組織をきちんと運用して、ちゃんと効率よく支配するための仕組みというものだったんです。支配される側もそういった仕組みがあると楽ですしね。
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川井: | なるほど。
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竹迫: | お互いWIN-WINの関係で、それが上手く培われて、回っていたんです。インドのオフショアの開発は、今非常に盛り上がっていますけれども、実は僕は、それはけっこう非植民地支配の歴史があったからだと思うんです。
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川井: | なるほど、そういう見方もあるんですね。
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竹迫: | そういったBS 7799やCMMのLevel3以上とかを取りやすい会社がインドに多いっていうのは、多分そうだと思っていますね。
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川井: | そうなんですね。
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竹迫: | もちろん、話す言語として英語を使っている人が多いっていうのもありますけれども。多分、文化的な側面が大きいと思っています。
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川井: | そんなところで、日本のエンジニアが幸せになるためには何が必要なんですかね?
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竹迫: | 今の日本のソフトウェア業界っていうのは、まだ日本語っていうので守られているんですけれども、今アメリカのIT業界をみてみると、アメリカが出しているH-1Bビザの発給リストの上位10社のうち8社が、もうインドのオフショア系の会社なんですよ。5位と10位がマイクロソフトとインテルになっていましたけれど、それ以外全部インドのオフショアをする会社がほとんど占めているんです。
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川井: | なるほど。
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竹迫: | さらに今は、米国のCOBOLとかJavaのエンジニアっていうのは、どんどんどんどんオフショアの方に仕事をとられて、失職者がものすごく増えて社会問題になっているっていうのを、この前放送されたNHKのワーキングプア特集で見て知ったんです。まあ、それが正しいかどうか分からないですけれども、もう言語の壁がないアメリカっていうのは、結構コーダー的なプログラマの置かれている立場がかなり厳しくなっているのかなっていうことですね。
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川井: | なるほど。
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竹迫: | いわゆる金融系、勘定系の部分については、もうほとんど大変っていうことですよね。
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川井: | ですよね。私どもの会社も、やっぱりその「エンジニアを幸せに」っていうのがテーマにしてまして。人によっては「ばら色の人生」じゃないですけど、これだけ仕事がいっぱいあって、人が足りないと言ってるんだから、幸せなんじゃないかという話もあるんですけど、まあそうでもないんじゃないかなって漠然としたものがあるんです。苦しんでる人も多いしですしね。まあ、あまり好きではないのにやってる人も中にはいますので。
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竹迫: | ああ、なるほど。
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川井: | そういう人が苦しんじゃうっていうのは分かるんですけども、好きでやってもうまくいかないとか、キャリアが見えないとか、マネージメント層に行かないとお金がもらえないとか、色んな問題がやっぱり日本にはあるんだと思ってます。なんかこう、お客さんサイドのほうからアクションをするとしたらとか、何をするといいかというのとかありますか?「エンジニアを幸せに」というテーマに対して。コミュニティ活動なんかもその一環でやられてるのかなっていう風に思ってるんですけども。
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竹迫: | まあ、今は……ちょっとそこは難しいので、答えるのが難しいですね。まあ、人それぞれっていうのもあるので。
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川井: | コミュニティ活動のことをお聞きしたいんですけれども、今はShibuya.pmの歴史的背景とか、竹迫さんの関わりとかはどんな形になってらっしゃるんですか?なんかでも竹迫さんと宮川さんがやると言えばやるんですみたいな感じになってるっていう噂が。(笑)
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竹迫: | 昔はこういったコミュニティ活動っていうのはなかなか難しかったんですよね。同じPerlっていうマイナーな言語に興味を持っている人たちが100人同時刻に同じ場所に集まるっていうのは。昔ではそういう集め方ってなんかはなかなか無かったんですけど、今はもうインターネットがあって、ネット上で告知すれば同じ興味を持っている人たちがざっと一度に集まってくるっていうのがありますよね。渋谷以外にも、関西とか福岡とかでもそうですし、色んなところで技術者が集まるイベントっていうのはどんどん出来ていて、そういうのは是非応援していきたいです。
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川井: | なるほど。やっぱり自主的に集まっているコミュニティを支援したいっていうことですね。
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竹迫: | そうですね。やっぱり会社の中だけにいて、そこでスペシャリストになるというような方のももちろんありますけど、自分が業界の中でどういった客観的な位置にいるのかっていうのを周りの人と色々確認できたりするので、自分がキャリアパスの精度を上げたり、コントロールしたい時には非常に参考になる部分かと思いますね。
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川井: | 私、画期的だと思ってまして、さっきも申し上げましたように業界的には非常に閉鎖的な業界だと思うんです。エンジニアと開発会社っていう業界が、同業同士でもほとんど情報交換しないみたいなことが歴史的にあった中で、そこを越えて違う会社のエンジニアが集まるということを自主的にやってらっしゃる。画期的だと思うんですよね。
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竹迫: | そうですね。ひとつはオープンソースの文化っていうのがひとつはあって、まあそのオープンソースの成果の部分をみんなで共有すればもっとお互いまたコストも下げれるみたいな話になっていますね。
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川井: | これってやはり皆さんが同じ事を時間かけてあちこちでやって、でもバラバラに走っていて共有もされなかったっていうところが、こう集まってきて、有効っていうか物になるっていうか、みんなの財産になるみたいなところがやっぱりさっきの「エンジニアの幸せ」に一歩近づくための、大きなステップなんじゃないかなって感じがしますよね。
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竹迫: | そうですね。あと日本独特の部分では、やっぱり受託開発って呼ばれるのが9割以上になっているんですけど、Webっていうのは、そうでないケースもあるんですね。自社開発の割合が多いんです。だからWebっていうのは面白いのかなっていうのもあるんですよ。やっぱり受託開発だとNDAとかそういうのがあるので、情報は共有しにくいっていうのはあるんですけれども、Webとかっていうのは比較的自社開発の割合が多いから、会社の判断で成果とかがオープンしたりとかできるんです。
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川井: | そうですね。ただやっぱり、システム開発って最初の頃って土台作りといいますか、基本的に同じ事をどこでもやるじゃないですか。あれが共有されないのは何でなんだろうなって思ってるんですけど、いかがですかね?
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竹迫: | そうですね。それぞれの会社で自社フレームワークみたいなものをもう何年もかけて作り上げてみたいな感じですね。
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川井: | もったいないな、っていう感じはしてるんですよね。
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竹迫: | ああ、なるほど。
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川井: | まあそこをやってしまうと、売り上げが下がるのかなっていうのもあるのかもしれないんですけれども、そこをいちいちやることによって、お客さんからそのお金をもらうっていうのももちろんあるとは思うので、そういう難しい構造を抱えた業界だなっていう風に今ちょっと思っているんですけどもね。
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竹迫: | まあ、そこの部分をどう効率化するかっていうのは、結構ビジネスとも連動してる部分だと思っていますね。例えば、受託で作ります、っていうので沢山お金をもらう場合に、ただ成果の部分、ミドルウェアの部分の著作権は自社でもち、他社の案件でも使わせてもらうかもしれないっていうので、納期を圧縮したり値引きしたりとか、まあいろんな交渉のやり方はあると思うんです。多分そういうのでうまく、受託の開発なんかでも社内で成果を回せるようなものがあればっていうはあるんですけど、まあそこらへんはビジネスの話なので・・・(笑)
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川井: | 微妙なところですよね。
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竹迫: | まあ、色々・・・(笑)。
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川井: | 現場からすると「何でまた同じことやってんだ」みたいな感じの印象を持つ事象が多かったりとか、そのために徹夜かいみたいな話だったりするんで、そうするとやっぱり、健康的じゃないって感じはするんですけどもね。
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竹迫: | そうですね。でも今はその、プログラミングの技術そのものはコモディティ化してるってのいうのを非常に感じていて、昔はプログラムが出来るっていうのは非常に特殊なスペシャリストの能力っていうことだったと思うんですが、今は本もあるしインターネットの情報とかもいっぱいあるし、ライブラリもフリーで充実しているし、結構コモディティ化してますよね。
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川井: | してますよね。
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竹迫: | そうなるとやっぱり、その単純労働の部分の割合が増えてくるっていうのは仕方ないかなと思います。
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川井: | なるほど。
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竹迫: | なのでそうじゃないやり方をしたいと思ったら、コモディティ化されていない領域に突き進むとかしないといけないと思いますね。まあ、そういうのは未開拓な新しい技術とかになると思うんですけれどもね。
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川井: | なるほど。やっぱり普通の領域っていうんでしょうかね、誰でも出来るようにな領域は、どうしても出てくるというわけですね。
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竹迫: | そうなるとやっぱり競争相手も膨らむし、量と時間との勝負っていうことにもなりますね。
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川井: | 最近はプログラミングをしたことのない人向けの本も出てますしね。
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竹迫: | いやもう、沢山ありますよね
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川井: | 凄いですよね、勢い的には。RubyとかPythonとかあたりはそういう本がばんばん出てますよね。
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竹迫: | 多いですね。Railsの本も一気にガーッと何冊も出たりしてますし。
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川井: | 今年いっぱい出ましたね。
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竹迫: | そうなんですよ。あともう1つ危機に思ってるのは、僕は情報科学出身なんですけども、今学校でコンピュータサイエンスを専攻している学生さんの多くは、プログラマになりたくないっていう風に思っているということなんです。なんかIT業界には3Kみたいなイメージがやっぱりあるみたいで、仕事が「きつい」のKと「帰れない」とか、あと「結婚できない」とかっていう、色んなKとかがあったりもして。で、やっぱり生涯プログラマーだとコンサルやマネージメント層に比べてお金が稼げないっていうイメージがあるので、アメリカに行ってもっと技術を極めたいっていう人もいるし、プログラマーじゃなくってコンサルに行きたいっていう学生さんもいるだろうし、googleに行きたいっていう人もいるだろうし。日本の中でコンピュータサイエンスを体系的に学んできた人たちっていうのが、結構日本のその業界とかにはあまり入ってきていない兆候が見えてきているので、そこはちょっと危機感を抱いてます。
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川井: | 7Kっていうのがあるみたいですよ。
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竹迫: | 7K! ああ、3Kじゃ駄目なんですか!
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川井: | 3Kはおっしゃるとおりで、きつい、帰れない、あと一つ何かで、実際7つなんですよ。7Kは、「化粧のりが悪い」っていうのがあったりもするんですけど(笑)。
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竹迫: | 徹夜すると肌荒れしますからね(笑)。
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川井: | 7Kとか言われてるのが私凄く気になってて、実はですね、ドラマ作りたいんですよ。エンジニアが主人公で、開発会社が舞台のドラマを作りたいんです。
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竹迫: | それは面白いですね。
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川井: | ええ。やっぱりキムタクにやらせたいんです。
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竹迫: | あはは(笑)。
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川井: | エンジニアが顧客と闘う姿を見せたいんです。いかに顧客の発注の仕方が悪いかとか、そういうものをあからさまにしたいんですよね。なぜ徹夜してるのかは周りの人はわからないですからね。
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竹迫: | そうですね。だから、家族を抱えてる人とか大変だと思うんですよね。結婚してると奥さんから理解されないっていう人もいるでしょうし、何でいつも終電ギリギリまで残って帰ってくるのみたいなことも言われたりもするでしょうしね。
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川井: | そうなんですよね。あとは女性がやっぱり「子供できたら無理だよね」みたいなことを最初から決めてるとか、女性が活躍できる環境が整っていないところもあったりとかするので、もったいないなって思ったりするんですよね。
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竹迫: | そうですね。サイボウズ本社の場合はワークライフバランス支援制度として育児・介護休暇制度っていうのがありまして、回数を問わず最長6年の長期休業が取れてまたいつでも復職できるっていう制度があります。
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川井: | それはいいですね。うちにも女性の人が結構いるんですけど、みんな悩んでますよね。結婚・出産をテーマに、「女性エンジニアブログ」っていうのが今立ち上がっていまして、女性のエンジニアが語り合えるような場を作ろうってやってます。やっぱり悩みは共通で、なおかつ、近くに同性の先輩がいないっていうのがあって、相談ができないっていうところで、何かネットワークが出来ないかなって考えてるんです。
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竹迫: | いいですね。今そういった女性のエンジニアのコミュニティがいくつか日本でも立ち上がってますからね。女性に限らず男性の子育ての割合も増えてきていますし。
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川井: | 何か生まれるといいなと思いますね。
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