川井: |
エンジニアの世界って、何も知
らない人からオタクっぽいとかも言われたりするじゃないですか。きたみさんの描いている作品って、そういうエンジニアの本当の世界を
世に知らしめているって意味ですごい貢献されていると思うんですよ。
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きたみ:
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どうですかね。中には、この人の漫画のせいで業界に人が来なくなるっていう人もいますからね。
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川井: |
エンジニアのなり手がいないってことですか?
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きたみ:
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この人の本を読んで、その後にSEになりたいって人いるのかなって(笑)そういう風に恨まれているんじゃないの?っていう人もいますよ。
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川井: |
私、エンジニアが主人公のドラマを作りたいんですよ。それを月曜日の9時から放送するんです。勿論、主人公のエンジニアはキムタクに演じさせて、「顧客と戦うエン
ジニア!」っていうのを描きたいんですよ。そうすれば、どうしてエンジニアが徹夜することになっちゃうのかとか、いかに顧客の発注の仕方が悪いかだとかって世に知らしめることができると思うんですよね。この社会を便利にしているのってエンジニアの力だと思うんです
が、なのに脚光を浴びてないじゃないですか。なので、もっともっと表舞台に出れるようにしてあげたいんですね。そういう意味では、きたみさんの描かれているものって、私のやりたいことに通じていてとても共感できるんですよ。それに実話じゃないですか。
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きたみ:
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でも、実は、古い話なんですよね。あれが今も実態って言われるってことは変わってないってことですよね。
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川井: |
変わってないと思いますよ。
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きたみ:
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労働環境が変わってないっ
て意味で、みんな変わってないって言うんですけど、もう一つ、働く側の意識も変わってないんだなあって感じますね。僕らが一番仕事に
燃えてた新入社員時代って1996年くらいなんですが、その頃もプログラミングをやってて、これは無駄な作業だなって思うようになってい
たんですよ。プロジェクトが終わって、新しいプロジェクトが始まると味噌の部分までに辿り着く前に、毎回同じものを作るじゃないです
か。また同じような設計して同じようなコーディングをしてやっとそれが全部終わってから今回の味噌のここに入れるみたいなのがバカバ
カしいいんですよね。こんなことやっている業界って他にないんですよ。大体共通化するものは部品になって、その部品に関しては専門知
識のない人でも組み合わせれば、ぱぱっとできるようにならないとおかしいよねって思っていましたね。オープンドッグとかマックとかMSがそういう方向に向かおうとしていたはずなんですけど、向かっているようで向かっていないそのままの世界が未だにあって、アセンブラ
レベルまでがーっと見て作りこむのがえらいっていう技術屋さんがいたりとかするんですよ。まあ、僕も「メモリーくらいはわかんないと
駄目だよ」みたいな考え方が根っこにあったりするんですけどね。
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川井: |
確かにそういう方は多いかもしれません。
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きたみ:
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例えば「あなたの仕事はなんですか?」って聞くと「コーディングです」とか「プログラムを組むことです」とかって答える人が多いんですけど、そういうなんか小
さな部分の話だけするのって、この業界だけなんですよね。業界を離れてみてそれはすごく感じますね。バイク屋さんに行って、バイクの
修理をしている人に「どんな仕事をしているんですか?」って聞いて、「俺はすごいスパナを使っているんだ」とかそんな答え方、絶対しないじゃないですか。バイクのどこをどういじるとかそんな話もしないですよ。バイクを修理するんだってそれだけですよね。SEの仕事っ
て、「仕事を便利にするためのソリューションを提供する」ことなんですよね。新しい技術を研究すること以外は、そのソリューションを作ることが仕事なはずなのに、何故かその人たちの言うのは、「C言語知らなきゃ駄目だよ」とか「アセンブラ知らなきゃ駄目だよ」とか、
そんなじゃあ、スパナをスナップオン使ってないから駄目だよとか言うの?って感じなんですよね。なんか大きなものを見ているはずが、
小さなところに目がいっちゃって、その小さなところの話が分からないのは、「あいつは技術が分かってないから駄目なんだ」ってことに
なっちゃうんですよね。なんか違うんじゃないかなって感じますね。そういう小さいところの話が今でも通じちゃうんで、僕の書いているのが実態って言われるんですけど、なんかそのまま変わってないっていうのは業界として不健全じゃないかなって思います。
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川井: |
確かに不健全ですね。本質的にはまったく変わってないと思います。
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きたみ:
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もうプログラマっていらなくなるよねって話を1995年とか1996年頃にみんなでしていたんですよ。要は新製品とか新技術を一部の上の人だけが作って、そうじゃない
ところでは、それこそ部品を組み合わせて、JISみたいなになったっていいだろうってことだったんですけど、その議論はどこにいったんだ
ろうって感じですね。家内制手工業と機械化という話に例えてよく話していましたけど、この業界は産業革命が起きないですね。何か作り
たいときにどう作ると効率がいいかってことはいろんな新技術とかが出てきて、よく議論されていると思うんですけど、ある仕事をどうビ
ジネスロジックとして落とし込むかっていうここの部分ってあまり聞かないんですよ。でも一番大事なのはそこだと思うんですよね。そういうのを突き詰めていくと、SEだプログラマだっていってもプログラミング自体の話はあんまり重要じゃないって思いますけどね。でも、この話って反発する人は反発するんですよね。
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川井: |
そうですね。でも本質なんですけどね。
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きたみ:
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YahooとかGoogleみたいに
技術を売りにしている会社なら、価値観はそれが一番でいいと思うんですけど、そうじゃなくて芸術家なら芸術家の職場にいけばいいのに
、工場で機械作っている一人なのに、「なに芸術家を気取ってんだよ」って思いますね。
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川井: |
会社側のマネジメントにも問題
はありますよね。若い頃は「技術だけやってればいいから」って他のことを見せたり覚えさせたりしないでおいて、30歳近くになってくると、急にリーダーをやれとか言い出して、35歳になるとマネージャーができないんならもういらないみたいに掌を返すじゃないですか。きたみさんは本の中で「35歳棚卸し」が大切って書いていましたけど、私は「20代棚卸し派」なんですよ。20代のうちにどの方向に進むのか
決められるといいなあと思いますね。
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きたみ:
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僕もサラリーマン時代、若手の面倒をみるときに、最初に聞くのが、便利になるシステムを作ってお客さんに喜んでもらうっていう道と、新しい技術を突き詰めていって、俺は一生技術屋だよって道とどちらの方向に行きたいのかってことでしたね。それによってこっちも振る仕事が変わってきますからね。それを早い時期にはっきさせ、技術屋としてやっていきたいのに会社にはそんな仕事はないよっていうんであれば、早い時期に教えてあげて、理想的には自分自身で創り出すっていうのがいいんでしょうけど、現実的には他のそういう仕事がある会社に移った方がいいですよね。その辺をごまかして、「いつかそういう仕事もできるから」って口先だけで言って、いいとこだけ使おうって会社も確かにありますね。
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川井: |
適性とか能力的な問題もありますから、それも含めて決めさせてあげたいんですけどね。
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きたみ:
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そうですね。中には、技術屋になりたいって言っているけど、そういう会社に移るかといえば移る度胸はないのに、今いる会社の中では俺は技術力がある方だって威張っている人もいますが、あれは卑怯ですよね。マネジメントとか泥臭いところは周りに押し付けておいて、自分は美味しいところだけとったりしたり。またバイク屋の話になりますが、接客はやらないでエンジンだけいじっているバイク屋なんていないですからね。それはやっぱりわがままなんですよね。それがしたければ自分の価値を高めて、ワークスマシンをいじれるようなところに行けばいいと思うんですよね。こういうことを言うと「技術のことを分かってない」って怒りだす人がいるんですが、ちゃんとステージを分けて、一般的にSEって言われる会社の話ですよって言った上で、あくまで研究職を除くっていうエクスキューズをしているのに、そういうのは見ないんですよね。
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川井: |
どうしても技術のところに反応しちゃうんでしょうね。
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きたみ:
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僕も本音のところでは、技術にどっぷりつかって遊ぶというか、そういうことだけやるのって好きなんですよ。もともとこの世界に入ってきたきっかけっていうのは
、やっぱり当時はネットスケープとかあの辺に憧れるとかAppleの創業のガレージがとか、そういうのがあるとは思うんですよ。でもこっち
はそういう文化じゃないですからね。シリコンバレーとかいくとマイクロソフトみたいな大きいのもあるんですけど、そこからちょっと脇
の通りまでいくと長屋みたいなものがあって、それがベンチャーっていうか、「こういうのを創るんだ」って言って頑張っている人たちのアパートみたいになっているんですよ。みんな、そこで何かを創っていて、そこであてた人が大きな会社が並んでいるところにいくんです
。そういうのは純粋に面白いと思いますよね。あと、あっちでは、会社を創っても潰すことって簡単にしちゃうみたいですね。日本だと信
用がどうこうというのがあって難しいみたいなんですけど、あっちでは会社を創って夢をおいかけて、駄目なら駄目、あたったら「わーい
」っていうのをとにかく繰り返すんですよね。そんな話を同じように夢に向かっている人たちと煙草吸いながらするっていうのはいいなあって思いますよね。
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川井: |
そうですね。楽しそうですよね
。
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きたみ:
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あちらさんってFPSゲームとかも好きじゃないですか。ドゥームとかクエイクだとかをLANでつないで遊ぼうぜ、ヤッフー!みたいなことになるわけで、「いいなあアメリカ」みたいになりますよね。気候とか空の青さとかも日本と全然違って、ちょっと外に出たら自然で目に優しくて、散歩でもしようか
なって気分になるし、通勤も車ですぐだし駐車場もあるし、全然違いますよね。これが日本だとそんな夢みたいなことを語っても、結局サラリーマンやって、通勤電車でぎゅうぎゅうになって、家とか買っても明日からあっちとか言って異動させられたりとかなのに、それでい
てシリコンバレーみたいなこと語ってもしょうがないですよね。昔、ビットバレーっていうのが渋谷であったじゃないですか。あれは腹が
立ちましたよね。全然違うじゃんって。
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川井: |
確かに、全然違いますよね。完全に話題造りだった感じがしますよね。
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きたみ:
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そういう意味では、ジャストシステムって、すごいいいなあって思うんですよね。絶対に東京に移ってこないじゃないですか。この前、「シスタン」って本の対談で
、サイボウズの青野社長といろいろ話す機会があったんですけど、ジャストシステムっていう会社は、ひょっとして日本のソフトウェア産業では、はじめて地場の企業になれた会社かもしれないですねって言っていたんです。トヨタとかマツダでもみんなお膝元を持っていて、
みんなの雇用を支えているんですよね。ソフトウェア産業ではこれまでそういう企業がなかったんです。ジャストシステムって会社はひょ
っとしてそういう会社なのかもしれないですよね。サイボウズの青野さんも夢はそこにあるって言っていましたよ。
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川井: |
確かにジャストシステムさんのメインの開発部隊は徳島を動かないですよね。 |
きたみ:
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あそこまで動かないと「頑張れ!」って応援したくなりますね。
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川井: |
Rubyを開発された、まつもとゆきひろさんも松江で落ち着いていますよね。ネットワーク応用通信研究所っていう会社にいるんですが、松江では「地域資源」とまで言わ
れて出れない雰囲気もあるって笑い話で言っていたりもしますけどね。最近は地方公共団体が結構動いていますね。Rubyに関してだけでも
、九州はかなり盛んだし、横浜、三鷹みたいなところでも動きがありますね。それって、きたみさんや青野さんの言っていることを後押しする動きにつながるかもしれませんね。 |