川井: |
今後の方向として考えていることってありますでしょうか? 技術者をやりたいのか、ビジネスをしたいのかとか、そういうものってありますでしょうか?
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高橋: | 「特にないです」と言ってしまうと話が終わってしまいますよね(笑) もうちょっとWebに付き合っていこうかなとは思っています。Webで仕事を始めて、ずっとWebとつかず離れず来て、インターネットバブルを越えてWeb2.0ブームまできたっていうのがありますからね。
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川井: |
Webの行く末をもうちょっとみたいって感じですかね。どうなっていくかの予想とかありますか?
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高橋: | Webは変わるものだと思うんですよ。変わるところにどうやって付き合っていくかっていう点が常に必要とされているんじゃないかなと。だって10年で本当に変わっちゃうので。それを10年前に予測できますかと言ったら、できないですよね。予想はできないけれど、うまくやらないと生き残れない。残っていくにはどうするかってところですね。そういった意味では非常に刹那的な業界ではあるんだけど、その中でも変わらないものや蓄積されるものもあると思います。
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川井: |
高い環境適応能力が必要とされるということなんですかね?
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高橋: | そんなに毎年毎年ドラスティックに変わることはなくて、少しずつ変わっていって、気付いたら全然違う風になっているというものじゃないですかね。
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川井: |
大きな波をキャッチしながら泳いでいるということですね。
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高橋: | 大きな波が来る来るって言ってて、やっぱりこないとかもよくありますけどね。これは来そうだからコストをかけて備えて、これは来なさそうだから無視しようとかっていう判断は都度都度必要になるでしょう。
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川井: |
いろいろお話をお聞きしていると、ある意味スマートに世の中と付き合ってらっしゃるのかなって感じるんですが。
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高橋: | いや、そんなことないですよ。色々大変だったんです(笑)
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川井: |
それは日々の仕事の中でですか?
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高橋: | ええ、そうですね。ベンチャーは本当に大変だって思いはとても強いですね。最初の就職先がベンチャーっていうのは色々厳しいので、結論から言うと私はたまたま運が良かっただけと思うんですよ。今、ここにいるのは、本当にラッキーだっただけで、ちょっと間違えると、普通にズタボロの人生があったんじゃないかなってこともわりとリアルに想像できるんですよ。
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川井: |
前田くんもベンチャーだし、2人とも最初はベンチャーなんですね。
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前田: |
そうなんですよ。僕も最初ベンチャーでズタボロにならないためにどうすればいのか悩んでいるんです(笑) 分岐点というか、何がポイントになったんですか?
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高橋: | それは本当に人それぞれなので、うまくいく人もいかない人もいると思うんですけど、私の場合は手広くやっていたのが良かったですね。
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前田: |
コミュニティの活動とかですか?
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高橋: | そうですね。それとか、本を読んだりとかも含めて。
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前田: |
仕事だけじゃなくて、自分が興味のあることにフラットに目を向けて、目の前の業務だけでなくバランスよくやるということですか?
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高橋: | そうですね。手を広げようとすると、人のコネクションもできるので、いざっていう時に助けてもらえたりチャンスが生まれたりもするんです。でも、いざって言うときのためにコネクション作るっていうんじゃ駄目なんでしょうけどね。
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川井: |
そうですよね。コネクションはあくまで結果的に生きるということですよね。
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高橋: | 何かに興味を持ったときに、自分で調べたりとか、試してみたりして、ものになったりならなかったりした結果、初めてある程度の知識が身について、プラスその分野に興味がある人と話が通じたりつながったりできるんだと思うんです。興味を持つことが先にあって、人との関係はたまたまおまけで付いてくるっていう状態ですね。
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前田: |
そうすると、自分が好きなものを純粋に楽しむっていうのが基盤なんですかね。
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高橋: | 好きかどうかよくわからなくても、興味があれば首を突っ込んでみてもいいんじゃないですかね。もしも本当に好きなものがあればいいんですけど、「本当に好きなもの」ってそんなにあるものじゃないですよね。「本当にプログラミング好きですか?」って聞かれると、そうでもないですっていう話にしかならないですからね。(笑)
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前田: |
高橋さんの場合もプログラミングやRubyに興味があったので、首を突っ込んでみて、結果的に今があるということなんですよね。
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高橋: | まあ、私の場合は本当に時間がかかりすぎてはいますけどね。小学生の頃からプログラミングを始めて、まともにコードが書けるようになったのが就職してからですから、一体どれほど無駄をしているんだって感じですよね。Rubyを覚えるってときも、その頃は近道がなかったので、過去メールをあさったり非常に効率の悪い勉強の仕方をしていたんですよ。
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前田: |
それはWebとかで調べるんですか?
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高橋: | Webとか本とか。梅田望夫さんのいう「高速道路」もなくて、ぺんぺん草が生えている状態を彷徨って行くしかないですっていう風な感じの世界ですよね。
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前田: |
そう考えると、今の僕らは高橋さんの本なんかを読んで、まさに高速道路を行っているってことですね。
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高橋: | それはもう、どんどん高速道路に乗った方がいいですからね。ただ、マイノリティっていうのも重要で、マイナーなものっていうのは、やっている人が少ないんですよ。やっている人が少ないとすぐ目立ちやすいというか、それなりに身についていますっていう状態でも価値が生まれるんです。例えば今、Javaを勉強しましたとか言っても、相当勉強したくらいではどうってものでもないじゃないですか。なんだけど、Erlang (アーラン)でやっていますっていうと、ちょっとしたプログラムに毛の生えたようなものが作れるようになりましたっていうだけでも、それこそ「はてなブックマーク」で評判になったりするわけですよ。私自身は基本的にマイナー志向なので、マイノリティ路線による恩恵を受けてきたかなという感じがしますね。わざわざマイノリティーになれっていうのも変なんですけど、人が少なそうで面白そうなものがあればそこに首を突っ込んでみるのはありだと思います。あと、マイナーな世界だと、すぐ人のコネクションできるのは利点です。なんせ母数が少ないので「あ、話が通じる。感動!」とか言っているうちに、みんな友達に見えてくるんです(笑)
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川井: |
それは、確かにありますよね。
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高橋: | ネット黎明期にそういう話はよくあって、○○さんの本を読んでいるのは今まで一人も見たことがなかったのに、他にも読んでいる人がいたって分かって感動しましたみたいな会話がされていたんですよ。それって日本SFの歴史でも同じような話がありまして、最初の日本SF大会のときに言われた言葉で「みなさん、隣の人の顔を見てください。その人もSFが好きなんですよ」っていうのがあるんです。普通の世界だとほとんどいないSFファンが集まっているすごい場所ですってことで。SFとか漫画の世界はマイノリティがたくさんいて、マイナーな作家さんファンのMLやサイトがいくつもできたりしてました。やっぱりそういう点でのWebへの思い入れがあります。Webって情報の発信ができて、かつ情報の共有もできて、共有先に人がいてつながりあうことができるっていうのはすごい感動ですよね。同好の志がいるって感じで。
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前田: |
マイノリティ志向とWebってそういうところではマッチした部分があったんでしょうね。
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高橋: | いやもう、まさにそうですね。初期のインターネットは、それなりのマイノリティ志向の人にとっては楽園みたいな世界でした。そういう居場所がなかったところに歴史上初めてマイノリティのコミュニティが生まれる地盤ができましたって感じですからね。
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川井: |
なるほど。
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高橋: | そういう場を作れるインフラがインターネットだったってことで、インターネットそのものに対する興味がそんなに強いわけじゃなくて、その中にのっているコンテンツが好きでしたっていうのがあるかもしれないですね。そこまでの濃い繋がりっていうのは、今はあんまりない気がするので、その辺りは変化しているのかもしれませんが、初期の頃の衝撃は大きかったですね。
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川井: |
いくら産業革命以来の大革命といっても、当然、次第に慣れて自然になっていきますからね。
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高橋: | 海外と繋がれるようになったのも大きな衝撃でしたね。
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川井: |
やっぱり、距離という物理的な概念を克服した点が大きかったんでしょうね。そう言えば前回のセミナーでもそうだったんですが、高橋さんの口から技術的な話があんまり出てこないんで、意外な感じで皆さんこのインタビューを読むかもしれませんね。
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前田: |
インターネットとか、Rubyとかにどっぷりってことではないんですね。
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高橋: | そうですね。Rubyが目的ではないですね。
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川井: |
その辺が面白いですよね。
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高橋: | Rubyについては面白いというか、やっぱり言語そのものを自分で作るのはすごいなっていうのがありますね。言語って作れるんだって、とても衝撃だったんですよ。 たとえばfor文という構文にも意味がある、for文を作るべきかどうかという選択肢があり、それを選ぶ理由があるというのが驚きでしたね。
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川井: |
このあたりもさきほどお話していたマイノリティの話と同じ軸なんですか? 人が少ないところに面白そうだから飛び込んでいったみたいな。
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高橋: | でもその頃は、Rubyが特に少ないというより、LL全体、たとえばPerlの濃い人っていうのもあまりいなくて、言語に興味を持つ層全体、マイノリティですよね。言語について話す場なんて全然なくて、例外的にあったのが、RubyのMLと「JavaHouse-Brewers」くらいですね。Ruby自体のよさに惹かれたところももちろんあるとは思いますけど、でもちゃんとそれを分かっていてRubyを選んだというよりも、たまたまRubyをやって、Rubyをてこに他の言語も調べてやっとRubyの面白さが分かるようになったという流れなんですよ。結果的にはRubyは面白いし自分に合っているってことで良かったと思いますけど。Rubyとの距離の置き方、スタンスについてはそれなりに意識をしていて、今でも覚えてるのが「たのしいRuby」を書くときに、「Rubyはプログラミングを楽しくするための言語です」って書いたんですよ。なんですけど、私が作ったわけではないので、こんなこと書いていいのかしらんって実はすごく悩んだんです。でもそこはそう書かないと文章として駄目なんですよ。伝わらなくなってしまう。それで、私としては決心をしてそう書いたときに個人的に吹っ切れたものがあったように思いますね。日本でRubyについて語る役を引き受けるというのは案外難しいことなんです。どう考えても、まつもとさんがいるのになんで?みたいな話になるじゃないですか。「日本Rubyの会」を代表するのもそうで、まつもとさんがいるのに、なんでお前が出てくるのってなるわけですよ。ならないわけがない。表立っては言われないかもしれないですけど。だから、そこを引き受けるのはわりと大変で、何かしら吹っ切ることが必要なんですよ。普通はそこまで吹っ切らないですよね。実力があればある人ほど遠慮するとか、忙しくてできないか、そもそも興味がないか、そんなところだと思うんですよ。Rubyが好きならRubyのコードをハックしている方がふつうは面白いはずで、Rubyの本を書いたりとか、本を書いてまるでRubyのことはなんでも知ってますみたいに説明を書いたりとか、あるいは「日本Rubyの会」の会長をして、Rubyの世界で偉い人ですみたいな振りをするだとかいうことに普通の人はあまり興味を持たないはずなんですよ。
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川井: |
「日本Rubyの会」の代表になったきっかけってどんなことだったんですか?
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高橋: | 誰もやらなかったので、しびれを切らしたっていう感じですね(笑)。まあ、イベントなども嫌いではなかったですし。
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川井: |
最終的には高橋さんが手を挙げたんですよね?
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高橋: | ええ。別に誰に作ってくれって言われたわけではないです。
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川井: |
やってみてどうですか?
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高橋: | あんまり真面目に運営できてないので、すみませんすみませんみたいな感じなんですけどね。
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川井: |
今、「日本Rubyの会」での高橋さんの役割ってどんなことですか?
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高橋: | なんなんでしょうね(笑)「日本Rubyの会」から来ましたっていう顔をすることですかね。窓口というか、顔があることって重要だと思うんですよ、誰だか分らない謎のメールアドレスがあって、そこに送ると誰だか分からない人々がいるのとは違うと。
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川井: |
そうですね。威厳があるというか、MLに高橋さんの名前で流れで来るメールとか、なんか期待感がありますよ。あの「高橋征義です」って文句で始まるやつです。
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高橋: | わたしは漢字でフルネームを名乗るという変わった挨拶を書く人なんですよ。
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川井: |
分かりやすいし、いいと思いますよ。
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高橋: | 単に「高橋」って苗字が多いからなんですけどね。まあ、まつもとさんみたいにひらがなで展開するつもりはないです(笑)
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川井: |
この世界では多いですもんね。ということは実務的に何かをやっているっていうよりも、イベントのときに前に出て喋るとか、そういう担当ってことですか?
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高橋: | むしろ細々と雑用をしている方が多いかも。大きな実務は、きっちりやれる笹田さんや角谷さんにお任せしてしまっていますが、私はあんまり実務に向いていないので、実務よりも人がやらない変なことをやる係なんです(笑)
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川井: |
やっぱりマイノリティなんですね。(笑)
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高橋: | 「やる」ってやっぱりみんななかなか言わないんですよ。言っちゃうと大変だし、実際大変ですからね。でも、言い出す人がいないと始まらないのも事実なので。
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川井: |
この前、そろそろ会長も変わらなければいけないかなって話をしてらっしゃったと思うんですけど、それは本気でそんな風に思っているんですか?
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高橋: | 思ってはいますけどね。
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川井: |
でも手を挙げる人がいないと。
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高橋: | まあ、いなさそうです。別に「日本Rubyの会」がずっと続けなければいけないってことはないんですよ。そういう使命感は実はあんまり強くなくて、継ぐ人がいなかったら潰したらいいんじゃないかって思うんです。とはいえ、簡単に辞めますって潰しちゃうことはもう出来ないことは分かっているんで、そういうことはないと思いますけどね。「日本Rubyの会」が「日本Rubyの会」を続けること自体を目的とした会になったらもうきっちりと終わりにするべきだって思っているんです。
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前田: |
今は、「日本Rubyの会」があることの意味ってどんなところなんでしょう?。
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高橋: | やっぱり「るびま」があることも重要ですね。でも「るびま」は「日本のRubyの会」というよりも笹田さんが一所懸命やっているみたいなところもあるし、笹田さんの負担も減らさざるをえないでしょうし。それを含めて、あんまりうまくは回っていないですね。私は「るびま」では基本的に巻頭言を書く係なんですよね。
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川井: |
文章を書くのがお好きだったらいいんじゃないですか。
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高橋: | いや、本当に大変で大変で、毎号毎号締め切りに遅れて本当にごめんなさいすみませんっていう感じなんですよ。あれって、面白いですか?
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川井: |
面白いですよ。高橋さんの人柄も伝わってくるし、みんなも楽しみにしていると思います。
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高橋: | 「プログラミング言語のWeb雑誌」の「巻頭言」にしてはおかしくないですかね? なんか常軌を逸している感じがしているんですけどね。
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川井: |
そんなことないんじゃないですか。期待している人にとっては、あまり関係ないと思いますよ。
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高橋: | そうですね。こういうものを期待している人にはこれほど面白いものはないだろうって思ってはいますね。
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川井: |
そう思います。
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高橋: | もう1つ重要なのが「Ruby会議」ですね。そもそもRubyの会自体が、基本的には会がイベントを主催するっていうのではなくて、イベントのように人が集まる場とか、勉強会ができる場みたいなものを提供するだけで、「日本Rubyの会」は何もしないし、意思を持たないというのが理想だと思っていたんです。でも世の中的にはやっぱりそうじゃないみたいで、場を作っただけだと、みんながなんとかしてくれるわけじゃないんですよ。でも「日本Rubyの会」は地方も含めて多くの中でもうまく行っている方だと思いますね。
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川井: |
確かにそうですね。最首さんのところ(Rubyビジネスコモンズ)は異常に盛り上がってますね。
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高橋: | RBCはいろいろ活動されてるようですが、あんまりRubyの会には出てきてくれないんですよね。でも、この前は活動の案内をMLに投げてくれてうれしかったです。
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川井: |
Ruby会議には、今年は、協賛させていただきたいと思っていますが、あまり出せないと思いますが、よろしいですかね。
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高橋: | あんまりスポンサーの方に、なにかすごいメリットを保証するわけじゃないので、出したいですって言ってくれる方に出したい金額を出していただければいいです。今年も「多様性」っていうテーマがあるんですが、いろんなところでどんな人が、どういう形でRubyに関わっているのか、Rubyに興味があるのか、Rubyを使っているのかっていうようなな話が聞きたいところなんですよ。そもそも「日本Rubyの会」のイベントにお金を払ってまで参加したいっていう企業がいること、その人たちがいったい何を考えているのかっていう話はすごい重要で、それは何かしらの形で一般参加者とみんなでシェアしたいところではあると思うんですよ。
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川井: |
なるほど、それは生の情報ですもんね。
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