川井: |
パソコンとの出会いを教えていただきたいのですが。
|
蓑輪: | 初めてさわったのは小学生くらいで、近所の友達の家にお父さんが仕事で使うPCがあって、信長の野望とかゲームができるのがうらやましいなぁと思ったのが始まりですかね。あとは、小学校のときに放送委員だったんですが、放送委員の部屋に、たぶんMSXだったと思うんですが、あまり使われていないパソコンがあって、勝手にそのパソコンをいじってみたら、お絵かきソフトみたいなのが出てきて、それで猿の絵とか描いてみたりしたのが最初の体験だったかなぁと思います。
|
川井: |
じゃあ。ほんと興味本位で触ってみたっていうのが最初だったということですね。
|
蓑輪: | そうですね。
|
川井: |
これが、小学校のときですね。なんか、そのときにおもしろそうだなぁとか、興味がわいたなぁとかですか?
|
蓑輪: | 純粋にそのころは僕はファミコンをなかなか買ってもらえない子供だったので、ゲームができるものっていう目でしか見てなかったですね。厳しかったのか、どういう教育方針かはわからないんですけど、親からは「ゲームっていうのは人が作り上げた制限された世界の中で、遊ぶもので、そんなのやって面白いの? 世の中にはもっと面白いものがあるんじゃないの?」みたいなことを言われていたんですよ。大人になってから考えると、言いたかったことは分かるんですけど、子供の頃は分からなくて「そんなこといっても僕はマリオやりたいんだよ」みたいに思っていたんです。
|
川井: |
素晴らしいお言葉だと思うんですが、お父さんはどんな方だったんですか?
|
蓑輪: | 国立大学の教員をしてまして、そういう関係もあってそういうこと言っていたのかな?と思います。
|
川井: |
哲学的な話を子供の頃からされていたんですね?
|
蓑輪: | そうですね、物理の先生なので、世の中のいろんな物事の仕組みとかを知るほうが楽しいんじゃないの?っていう意図だったんだと思います。
|
川井: |
なるほど。で、ゲームの箱でしかなかったものがどんな感じに変わっていったんですか?
|
蓑輪: | その後、ファミコンはなかなか買ってもらえなかったんですが、パソコンはなんとか交渉して、確か、中学校の終わりか高校生くらいの時にEPSONのPC98互換機を買ってもらって、それで念願のゲームをしていました。
|
川井: |
念願のですね(笑)
|
蓑輪: | そのゲームとかも親が厳しかったので、土日に1時間ずつとかしかできませんでしたね。
|
川井: |
それは集中しますね(笑)
|
蓑輪: | そうなんですよ(笑) なので、平日はパソコンがあってもあんまり触らないじゃないですか。でも、ゲーム以外の事ならどうやらやってもいいらしいぞってことで、BASICでちょっと画面に円を出して動かしてみたりとかっていうのはやっていましたね。
|
川井: |
なるほど。
|
蓑輪: | あとはその頃に、C言語っていうプログラミング言語に一回チャレンジしてみたんですけどポインタっていう概念がまったく理解できずに挫折したことがあるんです。入門書とか買ったんですが、まったく意味がわからなくて・・・。僕が出会う優秀なハッカーの人たちはだいたい中学、高校ぐらいのときにPC98でDOSを触っていて、「あの頃はグラフィックのあれこれをやってた」とか「BIOSで呼び出してた」とか「Cであれを書いてた」とか言うんですが、僕は地頭のよさがなくて、「こりゃわからん」ってなって、すっぱりあきらめてしまって、結構ゲーム機になっていましたね。
|
川井: |
「ポインタの概念でつまづいた」すごく具体的ですね(笑)
|
蓑輪: | ポインタっていうちょっと理解が難しい概念がありまして、本なんかでは、それを色んな比喩で学習させるんですね。例えばポインタを箱に例えて、箱に物が入ってますみたいな図が書いてあるんですが、ほんとにまったく意味がわからなくて(笑) なんていうんですかね・・・初めて分数の掛け算に出会った時に説明を受けないとまったく解らないじゃないですか。そんな感じで、これは自分の世界とは交わらないって世界だったんですね。
|
川井: |
なるほど。じゃあ。高校の間は土日1時間くらいたまにつけてゲームで遊んでいたという形になりますかね。
|
蓑輪: | そうですね。
|
川井: |
その後、大学はどういった学部に進んだんですか?
|
蓑輪: | 理工学部です。
|
川井: |
理系に行きたいと思った理由とかって何かあったんですか?
|
蓑輪: | 父親の影響もあってか、物理の研究者になりたいと思ったんです。それで、入ったんですけども、理系の学生なので確かパソコンが必要になった時があって、親に買ってもらってしばらく放置していたんですが、4年生になると研究室に配属されて、そこで1人1台のパソコンが支給されて、それからちょこっとずつプログラミングをするようになりました。
|
川井: |
4年生になると1人1台なんですねぇ。
|
蓑輪: | 研究室って行くと研究しないといけなかったり、助手の人と議論しないといけなかったり作業を命じられたりするんですが、パソコンに向かっていると、どうもこの人は忙しそうだって見えるわけです(笑) 僕の席は画面が窓を向いていてパソコンで何をやっているのかは見えなかったので、なんとかパソコンをして仕事を振られないようにしようとか考えていたときに、その頃ちょうど流行りだしていたブラウザで動くJavaAppletを使って、オセロとか作っていたんですが、それがプログラミングを本格的に始めたきっかけですね。
|
川井: |
その頃は本も見ずにやっていたんですか?
|
蓑輪: | その時はインターネットを利用して調べていました。
|
川井: |
じゃあ。ハッカーって言われる方としてはちょっと遅めなんですねぇ。
|
蓑輪: | そうですね。だいぶ遅いですね。
|
川井: |
最初から仕事ではプログラミングをしようと思っていたんですか?
|
蓑輪: | そうですね。物理の大学院に行こうって決めていたんですけど、ギリギリになって「あれ?別にそんな物理好きじゃないな」って事に気がついて、それで、だいぶ遅めの就職活動だったんでめぼしい所はあんまりなくて、大手グループのシステム会社に入って、プログラマというかシステムエンジニアみたいなことをやっていました。
|
川井: |
何年くらいですか?
|
蓑輪: | 何年ですかね。4年くらいですね。あんまり覚えてないんです。
|
川井: |
でも、4年もがんばられたんですね。
|
蓑輪: | そうですね。まず、入って1年目は色んなこと学べるので楽しいじゃないですか。2年目くらいになってだんだん周りの人の力量とかもわかってきて、でも、まぁある程度裁量をまかされてくるので仕事もわりと楽しくて、でも、社内だけではどうも技術は身につかないなっていうのが分ってきて、オープンソースでOSを作ってみようかなっていう思いに至ったんです。
|
川井: |
大手企業に行くと、基本的にはコーディングは社内ではやらないんじゃないですか?
|
蓑輪: | そんなこともなくて、同期が20人くらいいたんですが、その中で僕を含めて3、4人は コードを書くような部署で、僕は割とそういう部署に行きたいといっていたので、めぐまれていて、コーディングはしていましたね。
|
川井: |
web開発をやられたんですか?
|
蓑輪: | そうですね。大きなグループの会社に入ったので、関連会社向けの社内システムを作成していました。営業さんが見積もりを取るためのwebの画面とか、ボタンを押すとPDFで出力されたりするものとか、あとは発注画面とかですね。
|
川井: |
なるほど。そういう環境の中で技術力をつけるために個人的に、オープンソースのほうに行くわけですね。なるほど流れがよくわかります。
|
蓑輪: | はい(笑)
|
川井: |
それって自分でOSを作っちゃおうみたいな話だと思うんですが、普通の人にはできませんよね? この時点で2年くらいじゃないですか? どのへんでそういうことができる実力がついたんですかね?
|
蓑輪: | そうですね。そのOSを作ろうと思って2chに書きこんだときは、正直なところ、OSを作る力量はなかったんですよ。2chの人たちにも「そんなんじゃ無理だ」みたいな感じで言われました。でも、一歩ずつ階段を登るみたいな感じで、OSを作るには、まず最初にフロッピーディスクとかCDとかから起動しないといけないんですけど、起動するためには何が必要なのかというのから調べて、どうもアセンブラが理解できないといけないっていうのが分かって、サンプルのソースコードを検索して調べてみてみるんですが、さっぱりわからないじゃないですか。そうすると一行一行自分なりにマニュアル読みながら、こういう命令が発行されているっていうのを書いてみて、「こうこうやってみたけど、やっぱり分からなかったよ」って2chに書くと「それはこういう背景で、こういう動作になるよ」と親切に教えてくれる人がいて、割と自分で学習しつつ、分からない部分はフォローしてもらって成長させていただいたところはありましたね。
|
川井: |
サンプルコードを一行一行丹念に読んで、分かんない所を聞いて、それに対するレスポンスで勉強するというのを繰り返ししてきたという感じですね。
|
蓑輪: | そうですね。特に最初の頃はそういう感じでしたね。
|
川井: |
これは、ブログでコメントいただいた「宮下尚(himi)さんの武勇伝」に出てくるEmacsのコードを頭から全部読み続けて、6ヶ月かかってやっと分かったっていうのと似てる感じですね。
|
蓑輪: | でも宮下さんとか他のハッカーがすごいなと思うのは、自力でやられている点ですね。僕は人に助けられまくっていて何とかやれてきたので、個人の能力としてはそんなに高くないと正直自分では思っていますね。
|
川井: |
でも、それも含めての能力だと思いますけどね。
|
蓑輪: | いえいえ。とんでもないです。
|
川井: |
そこはでも、対照的で面白いですね。
|
蓑輪: | 僕も、一人でできる力があればもっと違う方向に行っていたと思うんですが、ほんと自分は頭が悪いなぁと思うことが多いです。
|
川井: |
蓑輪さんがそんなこと言ったら他の方が怒りますよ(笑)
|
蓑輪: | いえいえ(苦笑)
|
川井: |
じゃあ、そういう繰り返しを仕事が終わって家に帰ってからやっていたんですねぇ。やっぱり好きだからできるんですよね?
|
蓑輪: | そうですね。あとは多分、仕事で欲求不満がたまって、帰ってから発散するみたいなのは、あったと思いますね。
|
川井: |
やっぱり、やりたいことをやりきれないみたいな欲求ですかね。
|
蓑輪: | そうですね。
|
川井: |
じゃあ、自然と帰るとパソコンつけてそこに向かってっていうのがごく当たり前なことなんですね。
|
蓑輪: | それは今でも変わりませんけどね(笑)
|
川井: |
やっぱり、根本は好きなんですよね。仕事で疲れて家でゆっくりしたいって人もいるじゃないですか? そうではなくて、常にパソコンとたわむれていたいっていうか。
|
蓑輪: | 知的好奇心を満たしたいというのがあって、その対象が今はコンピュータなのかなと思っていますね。「今日はひとつも新しい発見なかったな」っていう日の夜はブルーなんですよね。「今日、俺なんにも頑張らなかった」みたいな(笑)
|
川井: |
すごい言葉ですね。これなんかトップキャッチにしたくなるような(笑)
|
蓑輪: | いやいや、やめてください(笑) 後で言おうと思っていたんですけど、僕は自分が、能力が低いとか頭が悪いのはよく分かっていて、それを補うための工夫みたいのでなんとかやってきたんで、そういうのをうまく伝えられればなぁ、と思っています。
|
川井: |
確かに一芸に秀でるのっていうのはすごく難しいことだと思うんですよ。なので今のお話ってよく分かりますね。高橋征義さんも同じようなことをおっしゃっていまして、 彼もすごいなと思うんですが、その彼が、Rubyではトップハッカーにはかなわないので 「文章を書く力がある」ということを併せ技にして、一流に近づいたっておっしゃってましたね。
|
蓑輪: | 高橋さんでもそうなんですね。プログラマの世界は、本当に力の差がわかりやすいんですよ。あの技術者は自分よりすごいっていうのがぱっとわかるんで、「あぁ、俺って駄目だぁ〜みたいな」感じで結構打ちのめされるんですね。
|
川井: |
なるほど。そうですよね。話を戻しますが、仕事しながら欲求不満を解消しつつ、OSを作り上げたんですね。
|
蓑輪: | 作り上げたっていうか、動いてはいますけどまだ未完成でまだ続けているっていう感じなんですよ。
|
川井: |
この「MonaOS」の発想っていうのはどういう所から生まれたんですか?
|
蓑輪: | OSの設計ですか? それとも作ろうっていう意味ですか?
|
川井: |
作ろうって思った方のことです。
|
蓑輪: | 作ろうって思ったのは、プログラミングの勉強をするにあたって、題材がほしかったんですね。そのときに、一般の人がよく使うであろう物のほうが作りがいがあると思ったんですよ。なので、例えばブラウザとかメーラーとかを考えた時に、よく考えればOS作ったら多くの人に使ってもらえるんじゃないのかって思って、今思えば恥ずかしいですが、 そこでOSっていう題材を選んだんです。
|
川井: |
じゃあOSが作りたいっていうよりは目的が色々あってって感じなんですね。 どんなOSを作りたいとかっていうのは、そのときからあったんですか?
|
蓑輪: | その頃はそういう思想はなくて、とにかく動くものが作りたいっていう感じでしたね。
|
川井: |
じゃあ、作っていく中で色んな思想とかこういうのが作ってみたいって感じだったんですね。まず、作っちゃってみるのもありですよね。ご自身としては作ったものについての思いというか、これをどうしたいとかありますか?
|
蓑輪: | よく言うんですけども、プログラマは自分が作ったツールの上で生活できると幸せなんですね。Emacsとかもまさにそうなんですけども、自分の作ったOSの中でまず自分が生活できることを目指してがんばっているんです。でもまだ道のりは遠いなぁって感じですね。
|
川井: |
すごいですね。本質的にすごい言葉を端的におっしゃるので、すごくわかりやすいですね。
|
蓑輪: | いやいや。知り合いでお絵かきツールを作っている人がいるんですが、その人も自分が漫画を書く人なので、自分が書きやすいようなツールを作って、そのツールの上で生活したいっていうのがあると言ってたんです。そういうモチベーションが結構大きいですね。
|
川井: |
なるほど、よく分かりました。実は本を購入してあって、サインをしていただこうと思ったんですが、今日間に合わず(笑) 今度次サインを・・・(笑)
|
蓑輪: | 勉強熱心ですね(笑)
|
川井: |
いえいえ。買って勉強してるかっていうとそうでもないんですけどね。つんどくっていうのが(笑)
|
蓑輪: | (笑) つんどく、分かりますよ(笑)
|