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トシくんは、IT専門学校を卒業後、中規模SIerにて働くコーディング大好きな若手SE。 プログラミングならなんでもござれ!…と強気な一方で、商慣習とかについてはまったくの門外漢。故に「なんすかそれは」と、失敗なんかもポコポコと。 そんな彼の体験談。はてさて、今回の話やいかに。

 それはとある卸売業者さんのとこで、受発注管理システムを手がけた時の話。主には、「なにをやるにも伝票伝票伝票伝票…って、そんなん書くのも管理も大変なんじゃー!!」という部分を、コンピュータ処理に置き換えてくださいなという仕事でした。

 そんなわけでありし日の私は、お客さんのとこに言って、色々ヒアリングしてきたんです。要求定義という奴ですよ。

「で、月の集計ですけどもね」とお客さん。
「はい」
「ウチは20日が締め日なので、そこで集計を出すようにお願いね」
「はい、わかりました」

 今回の仕事は、とある会計システムをベースに用いたカスタマイズ案件ということになります。ベースのソフトにはまだあまり精通できてないですけども、さらりと見た感じはテーブル仕様の中に「締め日」ってな単語もあったような気がする。

「んじゃ、そこに『締め日は20日』ってデータ入れときゃいいんだな、多分な」

 そんなことを考えながら、ガタゴト電車に揺られて、私は社に戻ったのでありました。

 さて、それから1カ月ほどが過ぎ、データベースやら画面まわりやらの設計がほぼ終わりました。細かい機能の詰めはまだ残ってますが、とりあえずはこれでプロトタイプもできたので、お客さんと打ち合わせだ…ということになったのです。   あ、プロトタイプっつってもあれですよ、単に画面遷移だけが動くようにしたハリボテのデモ版なんですけどね。

 ノートPC持参で先方の会社にお邪魔した私。いつも通される会議室でいつものようにお客さんを待っていたんですが、待てど暮らせど放置プレイで誰もあらわれちゃくれません。  30分が過ぎ、さすがにこれはおかしいな…と思ったあたりで、ようやくいつもの担当者さんがやってきました。

 「いやすみません、10日締めの処理が終わらなくて…」
あー、なるほど。締め日ってのはなにかと大変なものですものね。だからこそ今回のシステムをご依頼いただいたわけでもありますし。  …ってあれ?

「え、えっと、締め日って20日じゃなかったでしたっけ?」


 まぁ、数字が違ってたって、そんなんデータを書き換えれば済む話だからたいしたことじゃないんだけど。


「えぇそうですよ、ウチの締め日は20日ですからね〜」


 ん?やっぱりそうか。そうだよな。でも、じゃあなんで「10日締めが大変で」になるんだろう…。なんで?

 頭の中はクエスチョンマークだらけなんですが、あまりに「至極当然」という顔をしてるお客さんにそれ以上問い質すこともできず。仕方なしに「そりゃそうですよね」とわかったふりで、私はプロトタイプによるデモをはじめることにしたのでした。

「ほーほー、そうなるんだ」
「おー、いいねぇ。いいよぉ」
「ふむふむ、いやこれは楽になるなぁ」

 デモの内容はおおむね好評で、お客さんにはどうやら無事ご納得いただくことができたようです。ああ良かった。実は勢いに任せて実製造まではじめちゃった部分があるもんだから、「これ違ーう」とか言われると少し悲しいことになってたんですよね。  そんなことを思った時、お客さんがぼそりとひと言いいました。

「で、これは10日締めの処理はどうやったらできるんですか?」
「え?いや、20日締めですけども?」


「………。」

 なんかね、よくよく聞いたらね、得意先毎に締め日が違ってくるんですって。だからね、20日締めとか10日締めとかいう以前にね、5日ごとくらいに締め処理が発生するのが普通のことなんですって。 「当たり前じゃないか」って顔で、目をまん丸にしていたお客さん。  すみません、ボクにはそれは、当たり前の常識じゃなかったんです。

そもそも、普通に過ごしてたら出てこないですよね「締め日」なんて言葉。なんか仕事の時だけはやたらと聞くんですけど、なんなんすかこれ。

ん?要は月の売上を集計する基準日ですね。その月の売上を何日までで集計して請求書出しますわってもの。

んじゃ、1個じゃないですか。

相手が1社だけならね。でも違うでしょ?

ああ、相手ごとに違うんだ。でもなんで?そもそも、月の売上を集計するんだったら、どこもかしこもみんな「月末で締めて集計するね」でいいじゃないですか。

んっとね、月の集計をしないと、会計処理ができないわけなんだけど。

だけど?

その事務処理って、人員や量の多寡によって、かかる日数が会社ごとにバラバラなのよ。当然だけど。

ふむ。

だから、月の収支をはじき出す月次決算をね、たとえば翌月10日に出したいと思った ら、そっからさかのぼって「何日までに請求書が来てないと、この決算処理には組み込めません」となるわけだ。

あ、だから会社ごとに「うちの締め日はいついつで、いつまでに請求書をあげてくださいね」とかいう言い方になるんだ。

そう。締め日ありきじゃなくて、いつまでに収支を出したいから、そっからさかのぼるといつまでにはないと…って考え方なのよ。

なるほど。

そもそもあれだ、普段クレジットカード使ってたら、そっちでも締め日って出てくんでしょ。

あ、そーいやありますね。何日までの使用履歴がその月の請求にまわります…みたいなのが。

それといっしょ。ツケ払いのためには、なんだって月ごとに「締め日」ってもんが出てくるわけですわ。

作家・きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。本業のかたわらWeb上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
URL:http://www.kitajirushi.jp/
※大好評 Webエンジニア武勇伝にも掲載!第10回 きたみりゅうじ氏

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